デザイン事業部「アトリエ∞(インフィニティー)」所属、グラフィックデザイナーのwachico.(わちこ)です。

今回の「おつD」は、年々秋が無くなっていっても気分だけは……
読書の秋ッ!
……ということで「装丁」についてのお話をちょっと掘り下げてみます。
装丁とは、ざっくり言うとまあ「本の見た目」ですね。表紙やカバー・帯・本文の印刷や用紙・本の判型(サイズ)や背の綴じ方などなど、本の構成・構造にまつわる部分をまとめてこう呼びます。
ビジュアルデザイナーの中でも、主にブックデザイナー・エディトリアルデザイナー・DTPデザイナーなどの担うような領域となります。
今回は実際に1冊の本を例にとり、そこに施されたデザインの仕掛けについて探ってみます。どんな本が出てくるのか、お楽しみに!
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もくじ
【装丁は「読む前の物語」!】
【装丁を構成する要素】
【装丁が語る「もうひとつの」物語!?】
【デジタル時代、装丁のゆくえ】
【まとめ】
【装丁は「読む前の物語」!】

さて、いきなりですが皆さん。書店や図書館で一冊の本を手に取る……、そんな場面をイメージしてみてください。
紙の質感、文字の配置、装飾の工夫……。それらは言わば「まだ読んでいない時間」をデザインしているとも言えます。これらは全部、本人がこれから「読むかどうか(=購入するか・借りるか)」を決断する、大きな目安になるものです。
表紙をはじめとしたページの外側を指す装丁は、読者の心をそっと物語の世界へ導くための、入り口となるデザイン。読書の体験は、ページを開いた瞬間から始まる……、そう思いがちですが、実際はもっともっと手前のところにあったんですね。
本を本棚から手に取るとき。カバーの色やタイトルの書体を目で追うとき。そのときすでに、読者の心の中では「物語のプロローグ」が始まっている、と。やだぁ〜、なんか詩的!
……ゴホン。えー、つまり装丁とは、言葉より先に(本の)物語・内容の「空気」を伝えるデザイン。もっと言えば「読む前に想像させる」ための仕掛けなんです。
たとえば暗い色調の表紙を見れば、悲劇的な物語を予感したり。
反対に明るい余白の多い装丁を見れば、明るく晴れやかな物語を思い描いたり。
マンガなどであれば、カバー裏(本自体の表紙・裏表紙)におまけマンガが載っている、なんて遊び心があるケースも。
つまるところ、デザインとしての装丁は、読者の感情を開く「スイッチ」みたいなモノ、と考えてください。

最近では可愛い豆本(手のひらサイズの本)になったガチャガチャも販売されていますね。
例えば上に示した例は、2002年5月頃まで某大手出版社で実際に採用されていたカバーデザインなのですが、ミニマルながらよく考えられた「統一された特徴」があることが分かります。
この統一感のお陰で、本棚から目的のマンガ(レーベル)を探しやすいだけでなく、「この表紙デザイン=あのコミックス!」というイメージ定着にも大きく寄与したのではないかと思われます。
後は、装丁デザインを考える上で意外と重要になってくると思っているのが、背表紙のデザインです。
本屋さんでは、平置きで表紙全体を見せて販売される本より、本棚で背表紙だけが見える状態で販売される本が圧倒的に多いですよね。前述のようにキャッチーなデザインで目を惹くように仕掛けなければ、読者の手に取ってもらうことは難しいでしょう。
その中でも「デザインをパターン化して印象付ける」例が、まさに先程挙げた「コミックス」の表紙(カバー)です。「ライトノベル」や「児童文学書」のレーベルなどでも、同様の装丁スタイルが見て取れます。
まあ最近はそうとも限らない「作品らしさ」を押し出したデザインも多いのですが、基本的に同じ出版社(〇〇コミックス、などといった単行本レーベル)であれば、ある程度ルールに沿ったロゴ配置やレイアウトデザインになっているはずです。
書棚に並んだときの見え方まで含めて、装丁はひとつのデザインとなっているわけですね。今度本屋さんで、色んな本の背表紙を観察してみるのも面白いかも?
【装丁を構成する要素】
装丁をかたちづくる要素はいくつもあります。表紙のイラスト、色彩のトーン、タイトルの文字、紙の質感などなど……。
表紙デザインは正しく本の「顔」! どんな素材を選ぶのかで、印象はまるで違うものになります。
というわけで、ここで改めて上製本を形作る要素を紹介します。細かく紹介すると後の尺がカツカツなので、簡単にかい摘んでですが……。

「上製本」とはハードカバーとほぼ同じ意味で、一般的には硬い板紙などの表紙に紙や布を貼り付けて包み、本文の背を糸でかがる・糊で固めるなどして表紙に接着した本のことです。
高級感や見栄えの良さ・ファンタジーな雰囲気を演出したい時なんかに選択肢に上がる製本方式ですが、上製本に限らず、各部にどんなデザインを持ってくるかで装丁のイメージは大きく変わります。
マット紙(つや消し)であれば落ち着いた雰囲気をもたらすでしょうし、光沢のある紙なら華やかさや写真・絵画の色あざやかさを演出。
タイポグラフィ(文字の形や色・並びのデザイン)もまた、物語の重要な語り部となります。例えば角の丸い書体ならやわらかさを、直線的な書体は知的で硬質な印象を読み手に伝えてくれます。
【装丁が語る「もうひとつの」物語!?】
皆さんは『はてしない物語』という小説をご存知でしょうか?
ドイツの作家、ミヒャエル・エンデ氏が著した児童文学ですが、大人でも読み応えがある深い作品となっています。映画『ネバーエンディング・ストーリー』の原作、と言った方がピンとくる方が多いかも?
(まあ、映画化やドラマ化まわりの話はちょっとその、アレだそう……なので、その辺気になる方は各自お調べくださいまし。)
ということで今回の装丁を学ぶ教材として、非常に分かりやすいと思われるこちらの本を採用したいと思います。即採用の理由は……ふっふっふ、すぐにわかりますよ!
ともあれ、まずは書籍情報から。
はてしない物語 – ミヒャエル・エンデ著(岩波書店ハードカバー版)

書籍に関する情報
(Amazon商品ページより引用)
出版社 : 岩波書店 (1982/6/7)
発売日 : 1982/6/7
言語 : 日本語
単行本 : 589ページ
ISBN-10 : 4001109816
ISBN-13 : 978-4001109818
寸法 : 3.09 x 15.2 x 21.8 cm
物語のあらすじは〜……えーと、こんな感じ。
読書と空想が大好きな主人公・バスチアンは、些細な理由から学校で暴力的かつ陰湿ないじめを受ける。そのうえ母親を亡くしたことを機に父子関係にも溝が出来てしまい、すっかり自分の居場所を失くしていた。
そんなある日。いじめっ子から逃げるためバスチアンは、子ども嫌いと自称するコレアンダー氏の営む古本屋に転がり込んだ。彼はそこで『はてしない物語』という風変わりな本に何故か心惹かれ、思わずその本を店から盗み出してしまう。そして忍び込んだ学校の物置で、意気揚々と本を読み始める。
その本はファンタジー物の小説のようで、幼ごころの君が支配する国「ファンタージエン」が「虚無」の拡大によって崩壊の危機に晒されている、といった内容から始まる。病に倒れた幼ごころの君と「ファンタージエン」を救うため、使者に指名された少年・アトレーユは「救い主」を求め大いなる探索の旅に出る。
物置の中ひとり物語に惹き込まれてゆくバスチアン。アトレーユの健闘虚しく、崩壊していく「ファンタージエン」。本に隠された「秘密」を知った時、バスチアンが取った行動とは……!?
……と、言った感じでしょうか。

あかがね色の布張りの表紙を前にすると、まず感じるのは「重み」かもしれません。それは「589ページ」という物理的な重量感であり、また本の中に秘められただろう「物語」の深さ・ボリューム感を体現しているに他なりません。

他にも表紙に刻まれている、2匹の蛇が尾をくわえた輪の紋章──「アウリン(ウロボロス)」。
これは無限に循環する物語の内容を象徴しつつ、同時に読者を物語の世界へと誘う「仕掛け」のひとつでもあります。……どういう意図の仕掛けなのかは、本文を見ればなんとなく分かると思います。

本文は赤茶と緑の2色刷りになっており、赤茶色が「現実世界(バスチアンが本を読んでいる世界)」、緑色が「ファンタージエン(バスチアンが読み耽る物語の世界)」という風に、メタ的な(=ブックデザインでの)アプローチで場面転換を表現しているのです!
実はこの本には本当に様々な仕掛けがあって、どうしてもネタバレになっちゃいますが、ひとつは表紙にある「アウリン」について。これが「ファンタージエン」の物語中で、実際に重要なアイテムとして登場することが挙げられます。
そしてもうひとつは、これもだいぶ大きなネタバレになるのですが……、この本そのものが「入れ子状の物語」を秘めた「魔法の本」ってこと、です!
「バスチアンの生きる現実世界」に対し「ファンタージエン」は、あくまでもバスチアンが読んでいる「本の中の物語」ですよね? まずここで「ファンタージエン」は「バスチアンの生きる現実世界」の内側(バスチアンの心の中)にある、という入れ子構造が成立しています。
しかし物語冒頭を読み進めるに従って、「バスチアンの生きる現実世界」もまた「私たちの生きる現実世界(=メタ視点)」と繋がっているのではないか? という二重入れ子構造が明確に示唆されます。それがよくわかる一文がこれです。

バスチアンは本をとりあげると、ためつすがめつ眺めた。表紙はあかがね色の絹で、動かすとほのかに光った。パラパラとページをくってみると、なかは二色刷りになっていた。さし絵はないようだが、各章の始めにきれいな大きい飾り文字があった。表紙をもう一度よく眺めてみると、二匹の蛇が描かれているのに気がついた。一匹は明るく、一匹は暗く描かれ、それぞれ相手の尾を咬んで、楕円につながっていた。そしてその円の中に、一風変わった飾り文字で題名が記されていた。
はてしない物語 と。
「物語の主人公」かつ「物語の中の物語の読者」でもあるバスチアンの心の旅を「視覚的に追体験・進行」できる、このえも言われぬ高揚感。いや〜たまりませんねぇ!!(落ち着け)

さて、私たち「物語の外側の読者」は、交互に変わる色によって、今どちらの「物語」が語られているか理解し、物語の構造そのものを把握できます。
「読者」である私たち・「主人公」であるバスチアン・そして「ファンタージエン」の世界が、『はてしない物語』という1冊の「魔法書」によって繋がりあう。すべすべしたあかがね色の絹のような表紙を開き、手触り滑らかな2色刷りのページを捲れば、気分はもうバスチアン!
「読む前のデザイン」である装丁と、「読みながら感じるデザイン」である物語。装丁は「触覚で記憶するデザイン」なのでしょう。
なぜなら、主人公自身になって『はてしない物語』を味わう……、という感覚は、この装丁以外では決して味わえないからです。
本を読み終えたあとの余韻、読んだときの思い出は、ずっと忘れられない記憶として、こころに刻まれることでしょう。
この「魔法の装丁」を発案したのもまた、著者であるエンデ氏自身です。
父親が著名な画家だったエンデは自身も絵を描いており、本の装丁にもこだわりを持っていた。17年にわたりエンデの編集者を務めたローマン・ホッケ氏は「エンデは、この本を『魔法の本』と言っていました。だから装丁も、中に独立した世界があるような、特別なものでなければならない」と語っており、(Wikipediaから引用)だからこそ、先述のような「読者とバスチアンが一体化するような仕掛け」を装丁に込めたのだと思います。
その装丁をそっくりそのまま日本語訳版でもやってくれた岩波書店さま、本当に感謝!!
(ただその分、価格もそれ相応なお値段となってございます…)
【デジタル時代、装丁のゆくえ】

電子書籍が普及しても、装丁の価値は失われていません。むしろ過剰なデジタル化に伴い、手に取れる本だからこそ得られる体験(=装丁デザイン)が再評価されているようにも感じます。
SNSで「表紙買い」という言葉が生まれたように、装丁の魅力は現代のビジュアル文化の中でも強く生き続けています。スマホの小さなサムネイルの中でも、人の心を惹きつけるデザインは「物としての存在感」を放っている。
装丁は、物語を「飾る」ためのものですが、その本当の意義は物語を「包む」ためのデザイン、なのかもしれません。デザイナーが描くのは、ページを開く前の静寂の時間。そのわずかな瞬間に、物語の入り口をデザインするのが、私たちの腕の見せ所ってことですね。
あなたの本棚の中にも、きっと語りかけてくる装丁が眠っているはず。次に本を手に取るときは、ぜひその「外側の物語」にも耳を傾けてみてくださいね!
【まとめ】
いかがだったでしょうか。外は寒くて敵わんですが、お気に入りの一冊を探しに本屋さんまでお散歩、ってのも良きかもですね!
……さて。ワタクシ、ここまで皆様に黙っていたことがあります。
今回の記事テーマと記事構成・本文のラフ(下書きの下書き的なもの)。……実はこれらの大半を ChatGPTさんに作成してもらっていたのです! 勿論 ChatGPTのラフを踏まえ、私の意向に沿わない表現を主に、全体を大幅に加筆・修正致しましたが……。
「なんかこいつ別人じゃね?」と思った方、大正解です。ふふん。
だってほら、文章量が明らかに違うでs(略)
…………あるぇ??? そうでもないって???
と、いうことで来月はいよいよ年末恒例行事(?)、今年のブログ記事を一気に振り返るまとめ回の予定です!
まとめリンクのページも兼ねていますので、本ブログの記事検索は各年12月更新分を探すのが早いです(身も蓋も無いwww)
ここまでお読み頂きありがとうございました。
それでは、次回をお楽しみに!
※当記事中の一部画像には、商用利用可能な生成AI技術を用いて加工を加えています。詳しくはAdobeの生成AIについてをご覧下さい。
※画像お借りしました:いらすとや様
2025.11.07


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