名刺のおつまみ。

おつまみでざいん。

制作チーム「アトリエ∞(インフィニティー)」所属、グラフィックデザイナーのwachico.(わちこ)です。

今回の「おつD」は当事業所(及び株式会社名義)の名刺デザインをリニューアル致しましたので、その過程の中でもコンセプト(意図・狙い)部分を中心にお話してみようかと思います。

※プライバシーの都合上、画像の一部にモザイク処理をかけているものがあります。


もくじ

【小さな四角の限界に挑め!】
【フィニッシュデザインについて】
【可読性と色】
【「印象に残る」紙選び】
【まとめ】


【小さな四角の限界に挑め!】

どれだけインターネットが発達し、仕事上のやり取りがデジタル化していこうとも、働く人にとって「名刺」はいまだにマストアイテム。名刺を持つこと自体が社会人としての礼儀であり、自分自身や所属する組織を紹介し、何より相手の印象に残してもらう(知ってもらう)という重要な役割があります。だからこそ名刺のデザインには、想像以上に気を遣わなければいけないのです。

日本の名刺と海外の名刺

※参考サイト:株式会社山櫻

日本の一般的な名刺サイズは「91mm×55mm」(欧米では少し小さい「89mm×51mm」サイズが一般的)です。そんな手のひらサイズの中に、社名・役職名・氏名・住所・連絡先…多くの情報を「読みやすく」「わかりやすく」詰め込んでいかなければなりません。とは言え単に文字を小さくするだけだと、特に年配の方や視覚障害のある方にとっては読みづらいだけに…。

適度な文字の大きさ・適切なフォント(文字の形)選び・ちょうどいい余白取り…といった基本を押さえ、全体のバランスを見ながら慎重にデザインしていきたいところ。ある程度妥協しなければならない部分はあるとしても、必要最低限の「文字の読み取りやすさ」は確保したいですね。

ちなみにこの「どれだけ読みやすいか(視認しやすいか)?」という度合いのことを「可読性(≒視認性)」と呼びます。後でまた出てきますので、良ければ覚えておいてください。

旧デザイン→新デザインの比較

さてさて、今回はパンフレットやロゴのデザインを受けた、事業所で使用するアイテムに統一感を持たせるためのリニューアル案件です。既にこちらのページに実績として掲載している「封筒」や「クリアファイル」も、新規制作物ではあるものの「統一感を持たせる」という同じコンセプトのもとに制作していました。

当然ながら、旧デザインは私が手がけた物ではありません。込められた意図も推測することしかできません。とはいえ丹精込めて作られたであろうデザインをまるっと無視して進めるのも、個人的にこう…何と言いますか。少々モヤモヤして舵の取り方を悩む時もありました。最終的に、ガラッと見た目の雰囲気を変えながらも、旧デザインにあったネイチャー的な要素を「別のアプローチ」として残すような提案をさせて頂きました。それについては、また後ほど。

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【フィニッシュデザインについて】
表面(データ)

今回はいきなりフィニッシュデザイン(決定稿)のご紹介。まずは表面からです。勿論ここに至るまでには、幾つかのラフ案を出して検討を重ねています。本音を言いますとこのデザイン案、本来「あえて無さそうな」案、つまるところラフ案たちの「ネタ枠」だったのです。ところがクライアント(今回の場合は「当事業所」ですね)にはこれが一番「刺さった」ようで…。お遊び的なノリで作っていたコレを果たしてこのまま採用していいものか…と迷いましたが、いざ形にしてみるとこれはこれでちゃんとした感じになってくれて安心しました(笑)。

第一の狙いは、ロゴを目を惹くように大きく使い、受け手へ「ロゴ=事業所」のイメージを印象付けること。下のイラスト部分は、「明石」を思わせるモチーフをアイコン化したもの。本当は「とあるモノ」のために先行して作ってあったパーツですが、先の経緯から意図せずこの名刺で初お披露目となりました。細かい部分を無駄に作り込んでいたりするんですが、流石に名刺では分かりませんね。

裏面(データ)

続いて裏面です。裏面は事業所ではなく、運営母体である「株式会社ミューズ」名義の名刺、という別の用途を持っています。表面が賑やかな絵柄なので、旧デザイン裏面の流れを汲みつつシンプルに仕上げてみました。悪く言えば捻りのないデザインですが、名刺自体の紙質が特徴的なのでそこはあまり気にしませんでした。ほとんど1色ベタ塗りのデザインなので、名刺の方向(相手に向ける方向)が判別しやすいよう、印刷のない白い部分(横長の線)をアクセントとして残しています。

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【可読性と色】

今度は先述の「可読性」について考えてみます。

実は今回、諸事情で最初の納品から間を置かずに2回目の発注を行いました。その際、出来上がっていた名刺の可読性に少々難があったため、本当に僅かですが色の調整を行いました。前項で載せている画像は、この2回目の発注時に印刷所に送付したデータです。

色調整による新旧デザイン仕上がり比較

具体的には上図のように、一部読みづらい文字について色の濃度を上げました。データ上ではほとんど分かりませんが、印刷された物を見ると一目瞭然です。文字の大きさについては、レイアウト上やむなく妥協したところも多かったですが、少なくとも色味については多少なりと改善出来たかな? と思います。

印刷所側でもそれを汲んでくれていたのか、最初の発注時より全体の色を濃くしたり、彩度(鮮やかさ)が高くなるように調整してくれているのがわかります。そういった気遣いまでして頂けるとは思わず、ご担当頂いた印刷所の方々には本当に感謝するばかりです。お陰でより良い物を作ることができました。

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【「印象に残る」紙選び】

ところで、初めの方で「旧デザインにあったネイチャー的要素をこっそり『別のアプローチ』として残す」という発言をしていたのを覚えていますでしょうか? そのタネ明かしを致しましょう。それはズバリ「特殊紙の採用」です! 「特殊紙」というのはこれまた説明が長くなるので、ひとまずここでは一般的な白色ではない紙、という感じに思っておいて下さい。

デザインラフ制作当初こそ、一般的な用紙でコストを抑えたオンデマンド印刷(※1)を想定して進めていました。そんな折、物置と化している自宅の一室から掘り出したのが、学生当時に作った「再生ペットボトル素材」製の名刺。その印刷所を改めて調べてみると、当時より取り扱う用紙のレパートリーが増えており…。即座に無料サンプルを請求し直しウキウキしながら眺めていると、その中に「これはクロノスのイメージにぴったりなのでは…?」と思う用紙が! そこで「ネタ枠」ついでにダメ元で印刷所と幾つかの用紙を提案してみた所、検討された末に決まったのが今回使用した特殊紙、という訳です。

※1 オンデマンド印刷:「版」を作る必要がある従来の印刷方式と違い、データをそのまま印刷する印刷方式。そのため小部数でも発注可能で低コストな上、印刷品質も安定している。

特殊紙とはいえ再生紙であること・名刺という小さい印刷物であることから、比較的コストを抑えめに発注できる強みはあったと思います。だからと言って「特殊紙を使えばだいたい洒落たデザインになる」とか、そんな単純な話でもありません。何においても、コンセプトから外れない選択でなければ効果半減です。

写真では分かりづらいですが、触ると少しデコボコしています

今回選んだのは「帆布」を混ぜた再生紙。ゴミとして燃やされていた帆布の糸くずをパルプにしたものを、和紙古紙に混ぜた100%再生紙です。適度にコシがある紙で、表は少しツルッと、裏はほんのり画用紙を思わせる凹凸がある、独特な風合い。何よりの決定打は「帆布」というキーワードが「海のそばに位置する」「船を身近に感じる」クロノスの立地にぴったりだったこと。「大きな海原を行く船」のイメージは、設立から2年を過ぎた当事業所にとって、更に発展していこうというポジティブな印象も持たせてくれます。

紙の特徴をコンセプトに添って選び、うまく落とし込むことが出来れば、相手によりダイレクトな「印象付け」が出来るデザインになります。他にも「こんな紙があるんだよ〜」とか、初対面同士で話題を広げてみたり、紙選びからこだわる姿勢が伝われば、より受け取った名刺を大切にしてもらえそうですよね。それがひいては、人と人との繋がりを強くしてくれるのであれば、デザイナーとしては本望です。

ちなみに今回お世話になった印刷所について、ここではお名前を伏せさせて頂きますが「エコ名刺」と検索すればすぐに出てくると思います。こだわりの名刺を作ってみたい方は、一度調べてみて下さい!

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【まとめ】

そんなこんなで、いかがでしたでしょうか今回。またツラツラと長い話をしてしまったなー、と思いつつそのまま投稿するこの精神。どうにかならないもんでしょうかね?(ならなそう)

先月の話を繰り返すようですが、デザインというものは「見た目」と「中身」がちゃんと噛み合うよう、創意工夫を凝らすことが本質。特殊紙や特殊加工といった餌に「釣られる」だけにならないように、常に「コンセプト達成」という名のゴールを意識しながら手がけたいものです。

次回のネタは今の所思いついてないんですが、実は(まだ公開できない情報だと思うので伏せますが)事業所として着々と動き出しているモノゴトがちらほら。という事で、そう遠くないうちに関連のお話をここでするかもしれませんね。期待ほどほどでお待ち下されば、と。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

それでは、次回をお楽しみに!

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2022.10.24

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